バレリアン     (オミナエシ科)

ハーブ

バレリアン     (オミナエシ科) 和名    セイヨウカノコソウ

【効き目】
鎮静、鎮痙、就眠障害、神経性、痙攣性の消化器系疼痛など

秋に収穫され、ドライ状態でも入手可能ですが、非常に強烈な臭い成分「イソ吉草酸」を含みます。保存する場合は密閉袋を二重にし、冷蔵庫に入れましょう。中枢神経を抑制し、筋肉の緊張をゆるめるため、寝つきよくしたり不安をやわらげる作用があります。ただし、頭痛を引き起こす可能性があるので過剰摂取や長期服用は念のため避けてください。バレリアンは、オミナエシ科カノコソウ属の多年生植物で、和名ではセイヨウカノコソウと呼ばれているハーブの一種です。ヨーロッパ原産で、温暖な気候と森林や川岸の湿地を好みます。高さ1.5m程に成長し、夏にはピンクがかった白い小さな花を密生した房状に咲かせます。バレリアンは、薬用として根の部分を使用しますが、乾燥させると独特な強いにおいを発するのが特徴です。バレリアンの名はギリシャ語の「健康になる」を意味するValereに由来しており、およそ150種類が世界中に存在しています。

バレリアンの歴史
バレリアンは、古代ギリシャ時代から神経の高ぶりを抑え、深い眠りに導くハーブとして利用されてきました。古代ギリシャでは、芳香浴として使用されていました。ブリティッシュコロンビア州のトンプソンインディアンは、けがをした時のためにバレリアンを持ち歩く習慣があったといわれています。バレリアンのハーブティーは、精神安定および鎮静作用があることから、ヨーロッパでは伝統的に不安神経症の治療に用いられてきました。イギリスにおける第一次世界大戦では、兵士の弾薬恐怖症や空襲の精神緊張といった戦争精神症の治療に使われていたといわれ、第二次世界大戦前まで精神・神経疾患の領域で鎮静剤として広く用いられました。現在では海外の主要薬局方や規格集で、神経の緊張をやわらげる鎮静効果と安全性が認められ、一部の国では医療用のハーブとして承認を受けています。日本には、江戸時代後期の1800年頃に蘭方薬としてオランダから入ってきたとされ、第一改正日本薬局方(1886年)に「カノコソウ(吉根草)」の基原植物として収載されています。明治政府では西欧医学を推進し、1887年(明治20年)には、バレリアンの種子をドイツから輸入し、他の西洋薬草とともに栽培を奨励しました。この頃には国産の同効薬の探索も行われ、第二改正日本薬局方からは国産のバレリアンの変種などが基原植物として追加収載されるようになりました。第二次世界大戦前まで精神・神経疾患の領域で鎮静剤として広く用いられました。現在の第十三改正日本薬局方では、国産カノコソウのみが基原植物として収載されています。

猫をひきつけるバレリアン
バレリアンはギリシャの世界最古の薬学書に、「Phu」という名前で記載されています。これはバレリアンのにおいが強烈であったため、あまりの臭さに鼻をつまむ時に口走る英語の感嘆詞「Phu」から名付けられたといわれています。しかし、中世ではこの独特な強いにおいを好み、日本の“におい袋”のような使い方をして楽しむ人や、異性を引きつける催淫剤として使われていたという話もあります。また、ネズミがバレリアンの香りを好むことから、ネズミ捕りのエサにも使用されていました。そしてマタタビに似た作用もあるとされ、ヨーロッパでは、良いバレリアンを探すには猫の多く集まるハーブ店を探せ、といわれるほどです。バレリアンによって猫は惹きつけられ陶酔状態となります。

バレリアンの成分と働き
バレリアンには、中枢神経を穏やかに抑制する働きがあることが確認されています。バレリアンの有効成分がGABA(ギャバ)の代謝に関わり、精神安定作用と睡眠を改善する効果をもたらします。バレリアンの有効成分は、精油成分であるvalerenic acid などです。また、バレリアンの根を乾燥させた時の強いにおいはisovaleric acid によるものです。バレリアンにはビタミンやミネラルも含まれており、効能も精神安定だけでなく抗痙攣(けいれん)、去痰(きょたん)、利尿、駆風(くふう)剤としても利用されてきました。

バレリアンの摂取の際の注意点
バレリアンは容量・用法を守れば副作用の心配はほとんどありませんが、ごくまれに、胃の調子が悪くなるなどの軽微な副作用が起こる場合があります。大量に摂取すると、頭痛や吐き気、気分が落ち着かない、ふらふらするなどの副作用が起こる場合があります。においが強いため、使用量には注意が必要です。バレリアンは、サプリメントまたはハーブティーで摂るのが一般的です。ただ、ハーブティーで摂る場合、バレリアンは乾燥すると独特の強いにおいを発し、苦みのある草のような味がするので、レモンバームやパッションフラワーなどの鎮静効果を持つ他のハーブとブレンドすると飲みやすくなり、相乗効果も期待できます。また、精神安定や安眠作用があるため、車や機械の運転などの前に服用しないように注意が必要です。医薬品との併用については、催眠効果のある薬剤との併用は、作用が強まる恐れがあるため控える必要があります。また妊婦や授乳中の方、子供も控えてください。

バレリアンの効果

不眠症に対する効果
日本国内で厚生労働省が行った睡眠に関する調査によると、「1ヵ月以内に眠れないことがあった」という睡眠障害に関する問題を抱えている人は、男性で11.7%、女性で14.5%であることが分かっています。睡眠障害には、寝つきに問題がある、夜中に目が覚めてしまう、眠りが浅く熟睡した感じがしない、など様々な症状があり、精神的なストレスや昼夜逆転生活などにより快眠が得られない、などの原因が考えられます。不眠症が続いてしまうと、睡眠中にエネルギーを蓄えることができず、体力低下につながります。また、自律神経・ホルモンバランスが乱れて免疫力が低下するため、様々な不調を引き起こす可能性があります。脳内にはGABA(ギャバ)という神経伝達物質が存在しており、神経を鎮め、精神を安定させリラックス効果をもたらすとされています。また、血圧の安定にも効果を示します。このGABAが不足すると、脳細胞は常に興奮したままとなり、不眠状態に陥るとされています。バレリアンの有効成分はGABAレセプターに作用し、GABAとの間で相互作用を示すことによって効果が発揮されます。バレリアン抽出物によって 眠りが深くなり、ノンレム睡眠期が減りレム睡眠期が増えたとの報告があります。臨床実験では、男女128人にバレリアン400mgを就寝前に服用したとこ ろ、眠りに就くまでの時間や睡眠の質が改善されたという結果が報告されています。また、不眠症だけでなく子どもの睡眠改善にも用いられます。

不安をやわらげる効果
バレリアンは何世紀にも渡り、抗不安薬として用いられてきました。神経を鎮めて気持ちを穏やかにし神経性の高血圧の症状もやわらげてくれます。臨床実験において、不安による不眠に対してもバレリアンの効果が証明されており、不安障害に有効な抗不安薬などに匹敵する効果があるともいわれています。また、筋肉の緊張もやわらげるので、肩こりや緊張性の腹痛、胃痛、ストレスが原因の過敏性腸症候群、胃痙攣、生理痛にも効果的です。

鎮静、鎮痛効果
健常人54人に対し、色や言葉での外的な衝撃を与えた際の血圧の変化を調べたところ、バレリアンの投与によって血圧の上昇が抑えられたとの報告があります。またバレリアンの投与により生理痛がやわらいだとの報も苦もあり、鎮痛効果も期待されています。

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※参考文献一覧
すすきちえこ、はじめてのハーブ手帖、メディアパル、
2020、p111
わかさの秘密
https://himitsu.wakasa.jp/contents/valerian/

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